20160226 KEIO大学図書館国際フォーラム: 研究支援と図書館 ~研究サイクルを取り巻く「混沌」に図書館はどう向き合うか~

2016年2月26日に慶応義塾大学三田キャンパスにて開催されたKEIO大学図書館国際フォーラム(年1開催、今回が2回目)でのメモを公開します。例によって粗いメモです。
講演者は、OCLC Researchのコンスタンス・マルパス氏、ORCID Asia-Pacificの宮入暢子氏。

概要

-開催趣旨-
研究成果の質と量がランキング等の大学の評価に直結するようになり、研究力強化への図書館としての積極的な貢献が重要な課題であるという意識が定着しつつあります。この課題への取り組みは欧米において進んでいる感がありますが、日本国内でも、文部科学省有識者会議において研究データの利活用への図書館の積極的な関与の必要性が言及されるなど、図書館が研究支援で果たす新たな役割への要請が高まってきています。
そのような状況の下、研究サイクルに目を向けると、一連の過程を支援する有用なツールやプラットフォームが日々出現し群雄割拠の様相を呈していますが、多くの図書館では、この変化に関与していくと言ってもどこからどう取り組んだらよいものか、手をこまねいているのが実情ではないかと思います。
今フォーラムでは、まず、この課題についてのOCLC Researchでの最新の研究成果をベースに、「研究支援と図書館」を取り巻く状況を概観します。次に、具体的な取り組みとして、今後の研究成果の管理・利活用に不可欠な要素である研究者IDの代表格である「国際研究者識別子ORCID」について、基本的な解説とともに研究の現場でどのように活用されているのか、図書館との接点をどう見出せるのか等について共有します。そしてこれら講演の内容を踏まえた上で、今後に向けての議論を行いたいと考えています。
今回の企画が、日本での「研究支援と図書館」の関わり方・スタンスを今後考えていく上での一助になればと思っています。皆様のご参加を心よりお待ち申し上げます。

慶應義塾大学メディアセンター | メディアセンターについて | 第2回KEIO大学図書館国際フォーラム

コンスタンス・マルパス氏「Library Support for Research Information Management some emerging trends」

大学図書館の蔵書の価値(に関する変遷)、国ごとの学術研究活動を取り巻く環境(ファンディング等)の違い、研究活動活動の発生と普及、大学URAのこと、図書館の位置付けの変化(以前: 図書館という環境のなかに利用者がいる。現在: 利用者の環境のなかに図書館がある、あるいは、利用者に対して図書館が参与?していく)、ResearchGateおよびResearchGateにおける大学ごとのグループの話、researchmapや機関リポジトリ等の話題、研究データやメタデータ、識別子の話題など、たくさんの話題がありました。
私個人の関心はデジタル識別子にあるので、その内容だけですが、印象深かった点について。

  • 研究成果に対する識別子(DOI)。研究者(ひと)に関する識別子(ORCID)に続いて、組織の識別子が必要になる。
    • たとえば、各大学、各部門、あるいはビジネススクールといった対象・粒度の識別子。
    • 識別子についてはスコープによる3つのレベルがあり、それぞれ、「local identifier」(組織内あるいは特定のシステムの中でのみ機能する識別子。つまり他のシステムとの互換性のない識別子)、「national identifier」(特定の国や地域のなかでのみ通用する識別子。たとえば日本の科研費申請番号)、「global identifier」(国や地域を越えて通用する識別子。たとえばORCID ID」がある。これらを日本語訳するとどうなるのだろう?という疑問はあるが、とてもわかりやすい表現だと思った。造語的なものなのか、広範に通じる用語なのか、どちらなのだろう?
  • ORCID iDについて
    • カーネギーメロン大学の図書館は、昨年あるキャンペーンを行った。教職員に対してORCID iDの入手を支援し、その識別子を機関内の識別子と紐付けるということを行なっている。
  • figshareについて
    • 研究成果すべてに対してクレジットを与えるfigshare、学術研究活動を構成する様々な形態の成果が含まれている。
    • 大学以外のインフラにいかに依存するようになったかを示す好例だと思う。従来型のモデルである、図書館の管理/運営する機関リポジトリとは異なるムーブメントだから。研究アクティビティやそれにまつわるデータを扱う大学図書館を考える上で重要な知見である。

宮入暢子氏「ORCID: connecting research and researchers」

  • ORCIDについて
    • ORCID Asia-Pacificのスタッフ、アジア担当のスタッフは、現在、香港にいるサポートスタッフと宮入さんの2人のみ。2名で、ニュージーランド、インド、パキスタンあたりまで広範囲をカバーしている。
    • ORCIDの発足について: 2009年の終わりに、研究者識別子サミットが開催された。そこでのディスカッションがきっかけとなって2010年にORCIDという組織が発足。とにかく名寄の問題を解決することに注力した組織である。
      • 「ORCHID」という蘭の花を意味する単語があるが、ORCIDはスペルが違うのでご注意を。
      • ORCIDは研究者プロフィールサイトではない。
  • 「著者名の曖昧性の問題(Name Ambiguity Problem)」とは何か


(共著論文で)「僕は38番目の著者なんだよ」「わあ、そいつはひどい」「ああ、それだけじゃないんだ。共著者のうち、Wangという姓の38番目なんだよ。」「オー(Ohさんと掛けている)」
日本人の名前でいうと、田中宏和さんは同姓同名がたくさんいるという話題がある。
田中宏和さん

田中宏和さん

  • ORCID iDの登録数の推移
    • 配布資料中のs14、Over 1.9 million researchers have registered for an ORCID identifier.
      • 右肩上がり。
      • オレンジ色は研究者自らが手動登録した場合を指す。
      • 緑色(65%)は、第三者機関(たとえば大学、出版社、研究助成機関など)が何らかのシステムを作り、そのシステム経由してIDが発行された場合を指す。
      • 青色は大学等の機関が一斉にIDを振ってしまいたいということでバッジで処理した場合。これはうまくいかなかったので現在は使われていない。研究者自らがコミットすることが重要である。
  • ORCID IDの入力にはWeb APIを経由する
    • ORCID iDを第三者機関に渡す時にマニュアルで入力して渡さないこと。
      • OAuthみたいな仕組みを使って渡す/認証を行うことを推奨している。それ以外はやめてくれと推奨している。
      • 他人のIDを入れたり、あるいはミスタイプしたり、といったことが起こりうるし、それを検証する術がないため。
      • マニュアルで入力する実装が行われているウェブサービスもある。例えば、researchmapが該当する。実装を変更してもらえないか交渉を行なっているのだとか。
      • 仮に実装が変更されるとして、既に入力されているデータはどう扱うのだろう?、そもそもresearchmapにORCID iDを入れている人はどれくらいいるのだろう?(あまり多くない気がするが)ということが気になった。

ディスカッション

司会進行は市古みどり氏。ディスカッションのメモについても、私にとって印象深かったところのみです。他に、人材(スタッフ)やマネジメント(お金のことも含め)に関する話題もありましたが。

はじめに復習を兼ねて質問をする……前に、プレゼンを行った二人に補足したい事項、不足していた事項など確認する。お互いのプレゼンに対するコメント、あるいは、補足したいことなどがあれば。

マルパス氏: プレゼンのなかで話したことではあるが、更に補足する。大学図書館の課題は、大学全体の学術研究支援の情報マネジメントのサポートがある。また、個別の研究者に対する支援も非常に重要であるし、実際に、この点で図書館が積極的に動く、あるいは、積極的であると見られること、は大事。これらは必須。さらに、日本の機関リポジトリインフラがもつ特徴的な事項に触れておきたい。機関リポジトリを最近政府から出されているオープンリサーチに関する関心事と惹きつけてこの動向を見ていきたい。アメリカでも研究大学図書館において既存の機関リポジトリインフラを使って国レベルで求められているオープンサイエンスの要請に答えようとはしている。しかしアメリカにおいては個々の機関リポジトリのレベルは多様でばらつきがあるので、それに比べて日本の機関リポジトリのネットワークは非常に強固であり、国の要請に応えるためにJAIROも存在している。日本のほうが強固な基盤を持っているのではないか。日本の大学コミュニティが国のマンデートに答えよう、支援しようとしていることは非常に興味深い。日本のこれまでの努力のレベルと、コンソーシアムあるいは国家レベルでやってきたことがこれからどのように進展するのかは個人的にも注視したい。

宮入氏: 海外の事例については話したが日本の状況は話さなかったので触れたい。ORCIDは研究者が個人レベルでIDを取得する(完全無料)ほかに、研究機関あるいは出版社などからORCID memberになっていただいたところから会費を取るということをしている。400以上のmemberがいるが、まだイーブンになるにはほど遠い状況。
memberを増やしていきたい。NII,JST、2つは私企業、NIMS(昨年9月、最新member)の5機関がmember。正式サービスはNIMSのサービスが最もAPIを駆使してよく作ってあるのではないかと思う。これは年度が変わって4月のお披露目と聞いているので。
よくいただく質問として、researchmapやresearcher resolverとの連携がある。マニュアルで入力するのは困るといったが、それを地で行っているのがresearhmap。これはJST、NIIにお願いをしている。
プライバシーの説明をしなかったので説明したい。各アイテムに3つのオプションがあり、1.完全public(誰でも見られる、サーチエンジンも拾う)、2.自分にしか見えない設定(あまり意味、必要性はないかも)、3.trusted party?(一般には公開されていないしウェブからも見えないが、ログインして認証してトークンを渡した機関からは見てもらえるというオプション。研究者がガンガンデータを流したくはないがpublisherや大学、助成金支援機関には使って欲しい、といった場合には使えるオプション)。
性別や生年月日を入れるオプションはない。メールは入力できる(プライバシーオプション可能)。どこに所属しているが、どこの所属であるか、どういった出版物があるのか、といったことは公開情報に近い気がする。これらをきちんと使ってもらえるようにする、というのがORCIDデータ。なのでsensitiveなデータは置いていない。

宮入氏: 図書館に話をするとURAの範疇なのでURAにいってくれ。URAに言うと図書館に言ってもらえないとなんとも、みたいな対応がある。figshareみたいなものがあるとき、大学として、データが散逸してしまう問題にどう向き合っていくか?
マルパス氏: トレードオフ。確かに現在、研究者のコミュニティのなかでSNSの利用が高まっていて、こういったものが受け入れられている状況がある。Academia.eduやresearchgateには触れたが、そのほかにもMendeleyやGoogle scholarなどもある。研究者自身が投稿するというものについて、大学図書館が運営する機関リポジトリではなく、自らが自由に投稿するサービスのほうが成功してきているということを念頭に置く必要がある。なぜ外部のサービスが積極的に利用されているかについては注視する必要がある。研究者が求めている機能や特性があるのだとおもう。機関リポジトリについてそれほど研究者が利用しないことはなぜなのか考える必要がある。求める機能がないとか特定の機能がないとか。特定の研究者が外部サービスを使っているという状況から、機関リポジトリを使うように呼び戻すことが可能かどうかについては、大学が同じレベルのものを提供することがない限り難しいと思う。外部のリポジトリやプラットフォームが利用されているという状況をまずは認識する必要がある。同時に、個別の研究者が外部サービスを使っていることにメリットがあるということがあるのは確かだが、商業的な、外部のサービスが引き続き存続するかどうかは疑問が残るところなので。これは研究者にとってもトレードオフ。保証はまったくないわけなので。図書館がやってくれるように、研究者が発表するのを支援してくれるようなサービスが存続する保証があるかどうかを踏まえる必要がある(?)。
最後に付け加えたい点としては、インフラに関するリテラシー。インフラに対するリテラシーは確かに図書館が支援できる分野だと思う。figshareのようなインフラに関しても様々な属性があるということを認識する必要があるとおもう。プレゼンのなかで図書館は意識的にスチュワードシップのコーディネーションをしていく必要があると申し上げたが、figshareのようなリポジトリというのも大学のような研究機関のインフラの拡張版として捉えることが可能であることを認識する必要がある。実際にfigshareは研究機関向けのサービスもあるので、機関によってはデータインフラをfigshareによって運用している例もある。こういった商業インフラを悪いと言っている訳ではなく、こういったものを使うことに伴う諸条件を認識する必要があるという話。
アメリカやイギリスで機関リポジトリに移行が発生している。機関リポジトリがある機関において包括的なアーカイブであることを求める期待から、状況が変わり、機関リポジトリの機能はその機関の書誌情報(bibliography)であるということを求める動きに変わりつつある。なので、コンテンツのリポジトリではなくメタデータリポジトリであるという風に位置付けが変わっているということが起きている。もともとはコンテンツの包括的なアーカイブであろうと言う期待があったが、これを研究者なり教員が自ら投稿するということで実現しようと言う試みは失敗に終わったと思っている。また、現在はリポジトリのインフラの一部でなければならないという、出版に関する環境において、方向性が力強く働いているということに対する認識もあるとおもう。カリフォルニア大学やオクスフォード大学では、機関リポジトリメタデータハーベスティングをするためのものだ、という位置付けに変わっており、教員の出版物に関する情報は外部のリソースを使ってやっていこうと言う風に位置付けが変わってきている。なので、機関リポジトリの機能や、何を求めるのか、管理の方法、といったものが変わりつつある状況にあると言える。
ということで、機関リポジトリをコンテンツのアーカイブとして使うということに関しては、外部のサービスで実現していこうと言う動きがあるなかで、figshareの重要性が高まっている。figshareは一般的にどんなものでも投稿できるという性質があった。研究データマネジメントツールとして使えるという素地は元々あったのだとおもう。figshareで最も多く使われているカテゴリはデータセットなので、figshareにデータセットを投稿したい、投稿して満足する、といったニーズが多いのであれば、figshareを機関のデータセット置き場として使おうという動きが出てきたのだと思う。ORCIDについては、グローバルなインフラということで、様々な媒体で公表してきた成果をORCIDにインテグレートしようという動きがあるとおもう。

宮入氏: 商業サービスとしてのresearchgateやfigshareについては立ち上げた人は元々研究者で、使いやすい/使いたいツールがなかったから作ったというところに端を発するもの。大学に身をおいているわけでもなく研究者でもないような自分のような人間にとってはfigshareに投稿するというのはごく自然な動き、しかもDOIが登録されてサムネイルまで付いてウェブサイトに簡単に埋め込めるみたいなサービスはあっただろうか。他方で、NIMSのように使い勝手の良い、レベルの高いサービスを展開しようとする動きもある。

以上