WikiCiteの紹介

はじめに

本エントリーは、Wikimedia Advent Calendar 2018 - Qiitaの16日目の記事として、WikiCiteというイベントの紹介と参加報告を行なうための文章です。ブログのエントリーとしては、なかなか久しぶりの更新です。

同Advent Calendarにおいて最も関連する内容は、「Scholia - Fumihiro Kato / 加藤 文彦」で紹介されているScholiaというアプリケーション、サービスです。また、「WikidataからWikipedia記事の下書きを自動生成するMbabel - Qiita」の内容も、(1) WikidataのデータをTemplateを用いて他プロジェクト (Wikipedia) から呼び出す機能である点、(2) 特定の記述を半自動的に生成する機能である点が共通する要素であると捉えています。特に (2) は、後述する「Cite Q」というTemplateと発想やアプローチが似ています (ただ単に、発想やアプローチ自体が、割とありがちなものであるということかもしれませんが)。

筆者は、筑波大学大学院の博士後期課程学生で、専攻は図書館情報学です。研究では、Wikipedia上の学術文献の参照記述として、特に「DOI (Digital Object Identifier、デジタルオブジェクト識別子) 」を対象とした分析に取り組んでいます (researchmap)。ですので、WikiCiteと私の繋がりは「Wikipedia」と「DOI」です。

なお、本エントリーにおいては、基本的には人名に敬称等は付けず、そのまま記載することにします。

内容が長くなってしまったので、WikiCiteについて既に知っているという人は冒頭の内容はスキップすると良いでしょう。まったく知らない人は、興味が持てそうな部分だけ断片的に目を通すのが良いと思います。もし、私が他人の立場だったら、一字一句すべてに目を通そうとは思わないだろうので……。。

WikiCiteとは

WikiCiteは、Wikimedia Foundation の Director, Head of Research, Research である Dario Taraborelliが中心となっているイニシアチブであり、コミュニティです。

Darioは、学術出版物の引用 (citation) データを制約なく流通させ、利用するための Initiative for Open Citations (I4OC) というイニシアチブ*1における中心人物でもあります。

彼 (ら) のビジョンは、(1) 引用情報を含む (可能な限り多くの) 書誌データを自由に利用できるようにし、(2) それらのデータを柔軟に登録・蓄積できるようなインフラを構築・整備し、(3) WikiProjectをはじめとするウェブ上の様々なプラットフォームやサービスから柔軟かつ便利に使えるようにする、ということであろうと解釈しています。 (1) は、I4OCをはじめとする活動によって、(2) は、 (少なくとも現状では) Wikidata によって、(3) は、 WikiCiteを中心として展開されている様々なプロジェクトや試みを通じて、実現が目指されているものと私自身は解釈しています。

WikiCiteにおけるコミュニケーションのためのチャンネルは、主にML (メーリングリスト) のwikicite-discussTwitterハッシュタグ #WikiCiteTwitterアカウント @Wikicite です。Twitterハッシュタグはもちろん、MLもオープンですので、具体的な参加者や取り組み、意見交換等に興味があれば、とりあえず覗いてみるのが良いでしょう。

既に少し述べたように、WikiCite運営者のビジョン自体が幅広く、また、少なからず野心的であるため、WikiCiteコミュニティやイベントにおける参加者の属性や関心も多様です。WikipediaやWikidata等のWikiProject自体に強い関心がある人 (Wikimedia Foundationに所属する研究者やスタッフを含む) もいれば、WikipediaやWikidataの編集者として多くの貢献を果たしている人、学術出版関係者や引用データベースを構築している人、ライブラリアン (大学図書館員を含む) 、GLAM寄りの人もいます。あるいは、私のように、研究対象としてWikipediaや書誌情報に関心がある参加者もいます。もちろん、実際の参加者の属性はもっと多種多様で複雑なものですし、全員がWikiProjectにおいて編集者として活動しているわけではありません。やや強引かもしれませんが、WikiCiteにおける共通の関心は「Bibliographic data」と「WikiProject」と言えるでしょう。

以下では、本エントリーのスコープとして、2016年から年に1回開催されているイベントとしてのWikiCiteを扱います。

WikiCiteに参加して

このエントリーの執筆時点で、WikiCiteは過去に3回開催されているイベントです。2016年から、年に1回のペースで開催されています。私自身は、2016年にベルリンで開催された「WikiCite 2016」(初回) を除き、2017年にウィーンで開催された「WikiCite 2017」と2018年にサンフランシスコで開催された「WikiCite 2018」に参加しています。日本人では唯一の参加者です (いつまで使える表現なのだろうか?)。

私が参加したWikiCiteは、いずれも、当日はライブ配信が行なわれ、アーカイブとしても動画が残っています。

また、年1開催のWikiCiteやMLでのやり取りだけでなく、Wikimania のようなイベントでも議論の場が設けられているようです。Wikidata:WikiCite/Roadmap - WikidataにはWikimania 2018においてプロジェクトの方向性についてディスカッションが行なわれた記録が残っています。Wikimania 2018での議論を通じて、WikiCiteに関するいくつかの方向性が定まってきつつあるようで、WikiCite 2018では、それらの方向性をベースにグループ分け等が行なわれていました。

WikiCite 2017、2018ともに、3日間のイベントです。参加者および所属の一覧は、イベントのページに掲載されています (20172018)。プログラムや個別の発表内容等もすべて公開されています (20172018)。

イベントの内容は、1日目がConference、2日目がSummit、3日目がHackです。1日目は、WikiCiteプロジェクトの概要や、これまでの歩みや今後の方向性を含む内容が、基調講演や現在進行中の各自のプロジェクトに関する紹介を通じて発表されます。2日目は、1日目の内容を踏まえつつ、いくつかのグループに分かれての討論 *2 をします。最後に皆で集まってグループごとに成果を報告し、共有します。3日目は、前の2日間を踏まえつつ各自のアイデアをブラッシュアップし、関連するアイデア同士はグループとして統合したうえで、各グループに分かれてアイデアソン&ハッカソンをします。2日目と同様に、最後に各グループの成果を報告・共有し、全体的な検討をしたのち終了です。

2018年は、2日目の夜に「Social」がありました。文字通り、参加者同士の「親睦」の時間です。Social以外でも、休憩時間中やグループごとの作業において、参加者間で会話をすることはもちろん可能ですが、参加者間での交流が特にやりやすいのはSocialでした。サンフランシスコのバーに行ってお酒や食べ物を摘みながら (立食なので自由に移動して) 参加者同士で会話ができ、相手のバックグラウンドが少しずつ見えたことと、自分の研究に関係が深そうなプロジェクトについて発表していた人物と直接会話できたことが嬉しかったです。

また、2017年と2018年ですら方針が一定ではありませんが、1日目を中心に、Lightning Talk (LT) の枠が設定されています。何か短時間で発表したり呼びかけたい場合は自由に登壇することができるため、とても有用です。私は、自身の研究紹介として、分析結果の興味深い部分を中心にLTとして報告を行なっています (2017年の発表資料2018年の発表資料) 。特に2018年は発表時間が3分と非常に短かく (事前の準備不足も相まって)、うまく話せなかった気がして落ち込みましたが、おそらく分析結果自体がシュールで目を惹くものであったため、発表後に「面白いトークだったよ」、「興味深い結果だけど、あの編集者は何者なんだ?」と声をかけていただく機会が多々ありました。このように、たとえ短時間の発表であっても、共通の話題ができることと、自発的に話しかけなくても相手から話しかけてくれる機会が増えることは実にありがたい効果です (特に、英語を流暢に扱うことが難しい私にとっては)。

さて、ここまで一般的な事項ばかり長々と書いてしまいました。2017年、2018年と参加した範囲で、私にとって興味深かった内容をピックアップします。

DarioによるKeynote: WikiCiteが目指す方向性?

個別具体的な話題は後述しますが、WikiCite 2018に参加して驚いたことのひとつに、WikiCiteが目指す方向性として、Wikipediaで参照されているコンテンツのみに留まらず、(究極的には) あらゆる情報源に関するデータを蓄積しようとしていると示されたことが挙げられます。

docs.google.com

Keynoteでは、「Wikipedia上で、DOI、PubMed (PMID, PMCID) を使って引用されている学術文献については、すべてWikidataのアイテムとして利用できる状態になった」ということがサラッと述べられていました。地味かもしれませんが、やはり、これは凄いことだと思います。そのうえで、もっと対象範囲を広げたいという考えのようです (なんと野心的なことか) 。具体例としては、WikidataでのBookのカバレッジはもうちょっと頑張りたい。また、学術文献であっても、たとえば、DOIのような識別子がないものや、書誌データへのアクセスが制限された文献や歴史的資料はカバーできていない。ニュース記事、特許、テレビ番組、オーラル資料等は、データモデルの検討から行なう必要がある。かなり大規模なデータセットになってきたのはいいけど、名寄せ等は十分にできていない、などなど。

正確に理解できているか怪しい部分もあるのですが、方向性としては大きく3つのシナリオがあるようで、それぞれ、「(S) WikipediaをはじめとするWikiProjectで参照されているコンテンツに対するデータベースを作る」、「(M) 前出の (S) よりもスコープを広げ (Zika Corpusのような) WikiProjectで参照されているコンテンツの単なるデータベースを超えた枠組みを目指す」、「(XL) 書誌的なデータなら何にでも対応できるような基盤となるプラットフォームを作ろう」が検討されていました。来年はXLがベースラインになっている可能性もありますが;

初日の発表を聞いたり、個別に質問したりして分かったことですが、ライブラリアンやカタロガーのような属性の参加者は、そもそもWikipedia上で参照されているからどうであるといったことに軸足を置いていないようです。当然と言えば当然ですが、彼らは、自分たちの作っている様々なリソースに関するデータセットについて、なるべくオープンなライセンスを付与し、とりあえずはWikidataに突っ込んだ後、そこから連携可能な対象から (最大限、使い勝手の良い形で) 参照できるようにすることを考えているようです。つまり、大前提として (S) プランではないのです。一部の参加者に個別に質問した印象では、たとえば日本国外の大学図書館ではWikidataに対して組織的に注目が集まっていて、その一環として参加しているというわけではなく、どちらかというと個人の関心のもと、登録先や連携先としてWikidataが良さそうだと思って動こうとしている風でした。国や地域ごとに事情は異なるかもしれないので、全体的な傾向はまったくわからないのですが、Wikidataがオープンなインフラであるということと、既に大規模なデータ登録が行なわれた実績があることが背景にはあるような印象です。将来的な展望や位置づけは不明ですが、いまのうちにWikidataと連携する姿勢を見せておけば古参ぶれる可能性があり、悪くない選択肢かもしれません。

さて、私自身にとっては、そもそもの研究の分析対象からして (S) の範囲で収まってしまっていますし、(M) や (XL) の案について「泥臭い」と捉えている節が多分にあるのです。ただ、(M) や (XL) を目指そうとする人たちがどんな人なのかは少し分かる部分があり、その点は気づきでした。とりあえず、一番広いスコープでは何をしたいって意見が出るんだろう? ということが知りたかったという理由から、WikiCite 2018の2日目、Summitでは、XLのグループに参加しました。途中で疲れて抜けてしまったのですが、ライブラリアンやカタロガー、GLAM寄りっぽい人がいたのでしょうか。データモデルの検討をやりたいと言っている人もいれば、Wikidataに自分たちのデータセットを放り込みたいものの、同時にデータの品質についてもコントロールできるようにしたい、という意見も出るなど、色々な意見が出ていた以上のことは、よく分かりませんでした。

Cite Q

WikiCite 2017にてAndy Mabbettが紹介しているのを見て初めて知りましたが、「Cite Q」という名称のTemplateの開発が行なわれています。詳細はTemplate:Cite Q - Wikipediaを参照のこと。

Cite Q Template自体の導入状況は言語版ごとに異なる (どの名前空間で利用可能か等) 様子ですが、これは学術文献や書籍等の出典を記述するためのTemplateの一種です。この手の出典を記述するためのTemplateは複数存在し、たとえば、Template:Cite journal - Wikipediaなどがありますが、前提として、Templateに合わせて書誌事項を手作業でコピペする必要があります。あるいは、DOI Wikipedia reference generatorのように、DOIなどの識別子からTemplateに合わせた記述を自動生成するサービスも存在します。

これらの仕組みとは異なり、Cite Q Templateは書誌情報を記録した「WikidataのエントリーのID」を指定して呼び出すだけです (もちろん、前提として、Wikidataに当該のコンテンツのIDが存在する必要がありますが) 。

たとえば、Template:Cite Q - Wikipediaで示されている具体例ですが、

{{Cite Q|Q15625490}}

と記述すると、

Jeffrey T. Williams; Kent E. Carpenter; James L. van Tassell; Paul Hoetjes; Wes Toller; Peter Etnoyer; Michael Smith (21 May 2010), "Biodiversity Assessment of the Fishes of Saba Bank Atoll, Netherlands Antilles", PLoS ONE, 5 (5), doi:10.1371/JOURNAL.PONE.0010676, PMC 2873961, PMID 20505760

の記述が自動生成されます 。 仕組みとしては、Wikidata上のエントリーであるBiodiversity assessment of the fishes of Saba Bank atoll, Netherlands Antilles - Wikidataに書誌情報を登録し、それを呼び出しています。また、著者名は著者のエントリーと紐付ける、雑誌名は雑誌のエントリーと紐付ける等の対応付けを行なうことで、より詳細な出力結果を得ることに成功しています。

ただ、これは何らかの方法で対応する項目同士をリンクさせる必要があります。もちろん、元々の関連性が自明で、誰でも容易に理解できる (あるいは何らかの機械的な処理によって実現可能である) ものであれば話は簡単ですが、そうでないものも多数あるでしょう。この例では、論文著者のうち「Kent E. Carpenter」のみにWikipediaへのリンクがありますが、これはKent E. Carpenter - Wikidataに英語版Wikipediaへのリンクが登録されているからです。ただ、第一著者のJeffrey T. Williams - WikidataのエントリーもWikidata上には存在し、ORCIDのiDなども紐付けられています。すべてを手作業でやっているわけではないようですが、いずれにせよ部分的にはかなり泥臭い作業を伴うことが行なわれています。

実は、私のエントリーもある (Jiro Kikkawa - Wikidata) のですが、これはFinn Årup Nielsen - WikidataがWikiCite 2017の期間中に作ってくれました。イベント期間中、観察していた印象では、大体いつもラップトップでポチポチとWikidataのエントリーをいじり、Scholia側の出力結果を見ては修正を繰り返していたように見えました。つまり、彼らが取り組んでいるプロジェクトとは、そのような世界です。非常に尊い試みだとは思いますが、私自身は何も貢献できていません。

話が横道に逸れましたが、どれくらい同定識別を含む処理に努め、いかにして精度を高めるかという話は、どちらかと言うとWikidata側の話です。他方で、Cite Q Templateの素晴らしい点だと思うのは、(Wikipediaの各言語版および各ページに書誌情報を分散させるのではなく、) Wikidataに書誌要素とその値を集約できることです。仮に、すべての言語版からCite Q Templateを本格的に使用できる環境が整うと、書誌事項をその都度手入力する必要はない (繰り返し使用することができる) し、言語版ごとに英語表記のスペルが異なることもないし、単純なミスも生じにくいです。また、何か修正や変更を加えたい場合においても、Wikidataのみを修正すれば、Wikipedia上でCite Qを使って呼び出されている記述すべてに反映されるでしょう。これは、たとえば撤回論文などのケースにおいても有効でしょうし、そもそもWikipediaのTemplateについてほとんど知らない人にとっても使いやすいかもしれません。つまり、これはWikipediaの出典Template界における書誌ユーティリティの実現です。胸が熱くなりますね。

Andyに「将来的にはCite Qがスタンダードになるのかな?」と質問したところ、WikiCite 2017の時点では、「その点は、Wikipediaコミュニティのコンセンサスを形成できるか否かにかかっていると考えている。しかし、それには時間がかかるだろう。」というような返事でした。

Citoid

Cite Q Templateと似た話と言えば似た話ですが、Citoidという、IDを指定するだけでCiteできるMediaWiki拡張機能が開発されています。説明によると、URL、DOI、ISBN、PMID、PMCID、QIDのいずれかを指定すれば、該当コンテンツの書誌事項を自動的に取得してくれる機能です。ビジュアルエディターのなかで動くというデモが行なわれていました。

Citoid、Cite Q Templateともに、学術文献の参照記述を手動で記述しなくてもOKな世界を目指すという点では目的を同じくするものであると言えるでしょう。

なお、日本語版WikipediaにおいてもCitoidを導入するための動きがあるらしく (⚓ T192528 Use NDL API for ISBN/book dataWikipedia:井戸端/subj/ビジュアルエディターに参照ツールとcitoidサービスを導入する提案 - Wikipedia)、CiNiiや国立国会図書館サーチ (NDL Search) に関するAPIやライセンスについて、Citoidの なかのひと に聞かれました。私が知る範囲のことは答えましたが、CiNiiもNDL Searchも個人がやっているレベルのサービスではないはずなので、もっと適切な人とやり取りできたほうが先方によっても有益であるはずなのにな、と感じました。

あと、もはやCitoidとは関係ありませんが、(最近話題の) J-STAGEのことも一応書いておきます。

Internet Archiveのなかのひとから、J-STAGEメタデータやコンテンツをクローリングするにはどうすればよいのか? という質問を受けました。メタデータについてはDOI側から取得するのが良さそうであると回答し、JaLCメタデータとDOI Citation Formatterについて紹介し、デモンストレーションをしました。J-STAGEについても、個人がやっているレベルのサービスではないはずなので、もっと適切な人とやり取りできたほうが先方によっても有益であるはずなのにな、とは感じました。正確に聞き取れたかどうか確証がありませんが、コンテンツをクローリングしたい理由を尋ねると、「もちろん、Porticoのようなダークアーカイブがあることは知っているけど、たとえばJ-STAGEでフリーになっているコンテンツのデータは含まれていないし、見られなくなったら困るからアーカイブしたいんだよね」というような話でした。コンテンツのクローリングに関しては、良いアイデアを持ち合わせてはいませんが、彼らはコンテンツ自体のライセンスを自らは有さない、プラットフォームの提供者に専念しているので、「そんなこと言われても、個別の学協会に聞かないと一切の対応はできない」というロジックになる可能性が高いと個人的には思いますと拙い英語で伝える努力はしました。(もし、事実とまったく異なることを言っていたら、ごめんなさい。)

Scholia

先述のFinn Årup Nielsenが中心となって開発されているアプリケーション、サービスである「Scholia」ですが、Scholia - Fumihiro Kato / 加藤 文彦の説明が非常に分かりやすくて素晴らしいので、是非そちらをご覧ください。

1点だけ補足すると、Nielsenが自らの発表のなかで、頻出Topicおよびそのスコアを表示する機能を紹介していました (たとえば、このページ など)。text-to-topicsのページにテキストを入力して実行すればTopicを自動抽出するのだそう。改めて尊いと感じましたが、やはり、それと同時に「泥臭いような気がする」と思う自分がいました。

このような泥臭いと感じる部分は、個人的には正直「うーん」と思っています。あまり大声で言う勇気はないのですが、ここで胸の内を吐露すると、Web of ScienceやScopusが商業的プロダクトとして成立するうちは、依然として、泥臭いままなのではないかと思いますし、眼を見張るようなブレイクスルーがあるのかどうかに関してはやはり懐疑的です。人海戦術的なアプローチで取り組んでいる人たちがいるなかで、どれだけ優位に立てる可能性があるのだろうかとも感じます。いや、たとえ、優位に立つことが目的でなかったとしても、どのような部分に独自性が現れるのかは疑問に思っています。しかし、その一方で、WikiCiteのコミュニティに出入りするようになってからというもの、オープンであることを前提にした基盤やシステムのポテンシャルはすごいなと感じるのもまた事実です。結局、これらの思いの間で揺れる自分がいて、彼らのビジョンがあまり掴めていないのかもしれないなとも感じます。それゆえに「大胆」や「野心的」などの形容をしたくなるのだろうと思いますが、蓋を開けてみれば大胆でも野心的でもなかったという可能性が、まったくないわけでもないのかもしれません。

Zika Corpus

Daniel Mietchenが中心となって構築されているコーパスとして、ジカ熱に関するデータセットを構築するプロジェクトがあります。詳細は、Wikidata:WikiProject Zika Corpus - Wikidataを参照のこと。

私自身、あまり内容を理解できていないのですが、DarioがWikiCiteの紹介をするときに前述の「Scholia」と並んで最もよく参照しているプロジェクトです。おそらく、という前置き付きですが、単純に関連する書誌情報を集めてくるだけでなく、関連性を可視化したり、名寄せをしたりといったところに力を注いでいるのでしょう。

Daniel自身は、東京大学 (?) に出入りしていたことがあって、日本の学術情報まわりのことにも知識があるようです。WikiCite 2017では、日本人研究者の名寄せに役立つリソースについて知っていないかと話しかけてくれたのですが、残念ながら、あまり力になることができず;

ここまで書いて改めて思いますが、ほとんどZika Corpus自体の説明になっていませんね;折を見て勉強します……。

Understanding where Wikipedia needs citations through data science

docs.google.com

私自身の研究関心と合致する部分が多く、とても興味深いので絶対に直接話を聞こうと思ったのは、Wikimedia FoundationのResearcherであるMiriam Redi による「Understanding where Wikipedia needs citations through data science」という発表です。

Wikimedia Foundationのブログを通じて断片的には知っていましたが、現在、Wikipediaの各言語版において、どのページからどの識別子が参照されているかの情報を含む大規模なデータセットが構築されており *3、同データセットでは、Wikipediaのページに対してTopicの推定が行なわれていることが興味深かったです (数年前に同様のことをしようとして、これは無理だと思って諦めた経緯があるので)。具体的なTopicの推定方法に関する論文は直接聞いたら教えてもらえましたが、(1) 学術文献の参照記述はどれだけクリックされているのか? 、(2) Topicごとにクリックされる割合等は異なるのか、(3) そもそも、参照記述は出典として記述されているのか、単なるハイパーリンクとして記述されているだけで出典ではないのか、などの話題に興味津々でした。あまり自分の専門に関係することを書き連ねても意味がないかもしれないので、簡易紹介に留めますが、いま自分がやっていることと関係する部分がかなりあったので、Socialの時間に話しかけました。先方は先方で、「あなたの構築しているデータセットは、私達がやっていることとはアプローチが異なっている点が興味深い。お互いに、どれくらい符合するのかしらね?」と言っていたので、最終日のアイデアソンでは手元のデータセットと照合して結果を眺めながら、「これは結構面白いね」と話し合いました。

WikiCiteに参加するには?

参加意思がまったくない人には無益な情報だと思ったので、後に回しましたが、参加するにあたって重要な事項です。

今更ですが、WikiCiteは招待制のイベントです。どれくらいありふれた形態なのか分からないので、なんとも言えませんが、私自身にとっては独特だと感じられるものであるため、とりあえず、ひととおりの内容を書いておきます。

WikiCiteの開催が決まると公開されるエントリーフォームに必要事項を入力し、審査を受ける必要があります。審査自体は、イベント自体のキャパシティよりも参加希望者が多いために行なっているらしく、自分が何に興味を抱いていて、どのような目的で参加したいのかを記入し、提出します。しばらくすると結果の通知が届きます。

通知には少なくとも2種類があるようで、初めて申し込んだとき (WikiCite 2017) は、Waitlist行きでした。Acceptされた場合には主催者からAcceptの通知およびInvitationが届き、その時点で本当に参加するか否かを決めることができます。もちろん辞退することも可能で、Waitlistは、このような辞退者によって枠に空きが生じたときに後から追加でInvitationを送るために設けられた予備の枠です。当初は、Waitlist行きの案内を受け取った時点で、実際に参加することはなさそうだし、自分には縁がなさそうだと思っていたのですが、その後に辞退者が出たようで、かなり直前になってInvitationが届きました。2回目の挑戦、すなわちWikiCite 2018では、一発でAcceptの通知が届きました。ただ、その直前に「想像以上に多くの申込みがあって嬉しい悲鳴である。予定よりも審査に時間がかかっているけど、もうちょっと待ってね」の案内が流れていたので、これはダメそうだと内心思っていました。ですので、結果を見てとても驚きましたが、WikiCite 2017に参加したことで、どんな人物で、何に興味があって、ということが明らかであったことがポジティブに作用したのかもしれません。

なお、私はその立場にないので、これは推測でしかないことを予め断っておきますが、実際に関連するプロジェクトやプロダクトがある人は、そのことをエントリー時点で明記するとスムーズに事が運びそうな印象があります。もし、それが個別のWikiProjectに直接関係しない場合でも、たとえば、論文や著者の名寄せに関する試みや、オープンアクセス版のコンテンツが出版者版とは別に公開されている場合に見つけ出せるようにするための基礎データセット等であれば、場合によっては歓迎されそうな印象があります *4。なぜなら、他にも関連するプロジェクトやプロダクトに従事している参加者がいる場合、お互いに得るものがあるでしょうし、それらの共通の属性をもつ人同士でグループとして活動したり、長期的にWikiCiteにフィードバックを与えられるような効果が期待できると考えられるからです。実際に、2018年のエントリーフォームにおいては、他の参加者やWikiCiteコミュニティ自体にどのような貢献を果たすことができると考えているのかを記述する項目がありました。私は、日本人なので、潜在的な参加者層としても圧倒的にマイノリティーだと思いますが、実際に参加してみると、「日本の学術文献のメタデータを収集中なので、もし知っていたら教えて欲しいけど」や「日本人の研究者に関する情報に対して名寄せをしてWikidataに反映したいんだけど」等の問い合わせを複数回受けたことがあるので、きっと、需要はあるはず。

開催時期については、正直、よく分かりません。WikiCite 2017の閉会時には「次回はバロセロナでのWikimaniaの時期にあわせて開催するつもり」と言っていた気がしますが、実際には全く異なる時期にサンフランシスコでの開催でした。スポンサー等との交渉状況にも左右される難しいものであるらしく、開催前に (学内での渡航支援の申込みに出そうとしたら、開催場所も日程も不明などという状況では、申請自体を受理できないと言われた都合で、渋々) Darioに連絡したところ、そんな雰囲気の返事をいただきました。開催地については、日本で開催されることだけはないだろうと思いますが、ヨーロッパとアメリカで交互に開催するのか、そうではないのかも分かりません。ただ、Wikimedia Foundationのスタッフが水面下で準備を頑張っていそうな気配があるので、Wikimedia Foundationのオフィスが所在する国や地域で開催される可能性が高いのではと思います。そういえば、WikiCite 2018にはインドからの参加者が思いのほか沢山いました。理由は分かりませんが、インドでの開催もありえるのでしょうか。

おわりに

いかがだったでしょうか (ありがちな、まとめサイト風に)。

当初は軽い気持ちで、2年分の内容で印象的なことを押さえてみようと思っていましたが、実際に書き始めてみると冗長極まりない文章になりました。しかし、文章自体が長い割には、WikiCiteそのもの、または、WikiCiteでどんなことが行なわれているのかなどの情報をうまく記述することができなかった気がします。まだまだ、自分の理解が不十分なことも原因のひとつですが、次回以降参加することがあれば、もっと努力して理解を深められるようにしたいと思います。

ところで、末筆ながら、このエントリーを書いたきっかけのひとつは、Wikimedia Advent Calendar 2018 - Qiitaの作成者である加藤さんにお声がけいただいたことです。ありがとうございます。

ちょっとした裏話としては、今年の WikiCite の invitation を受けるためのエントリーにて「私が参加することで、特に、アジア地域でのアウトリーチに資すると考える。また、将来的な教育・研究活動において、WikiCiteで得られた経験を最大限活用したいと考えている」という旨の記述をしたことが挙げられます。後者は、近い将来の話として書いたつもりで、いますぐアクションを起こす話ではないという言い訳の余地があります。しかし、前者については、招待を受けて参加しておいて一切何もしないというのは問題かな? という (若干の) 良心の呵責がありました。とは言っても、このエントリーを公開することによって何か直接的かつ大きな貢献に繋がると本気で思っているのかと問われれば答えは否ですが、もし、WikiCiteを既に知っていて関心を持っている人のみならず、新たに興味を持った人、次回は参加してみたいと考える人がいれば、それは意味があることだと考えますし、書いてよかったと思います。

最後に、WikiCiteに限らず、日頃からあらゆる角度でご指導・ご支援いただいている高久先生と、文句を言わずに温かく見守ってくれている父に感謝を表し、〆たいと思います。

次回更新がいつになるのか (そもそも次回更新があるのか) 不明ですが、それでは、また。

*1:カレントアウェアネスに素敵な記事があります。たとえば、「引用データのオープン化を推進するイニシアティブI4OC立ち上げ | カレントアウェアネス・ポータル」、「引用データのオープン化を推進するイニシアティブI4OC、立ち上げから1周年 | カレントアウェアネス・ポータル」、「引用データのオープン化を推進するイニシアティブI4OC、Crossrefに登録された雑誌論文の参考文献のOA率が50%を超えたと発表 | カレントアウェアネス・ポータル」など。

*2:普段ほとんど英語に触れない怠惰な大学院生には最もつらい時間ですが、Etherpadに内容のメモを書いてくれるメンバーが大体いるので、話の流れや雰囲気はギリギリ分かるような感じです。要反省。

*3:Redi, Miriam; Taraborelli, Dario (2018): Accessibility and topics of citations with identifiers in Wikipedia. figshare. Dataset. https://doi.org/10.6084/m9.figshare.6819710.v1

*4:その場合は、既に公開されているデータセットやプロジェクトとの関係性や連携内容が明確なものが良さそうです

#jawphos #jawp 科学史学会2016「ラウンドテーブル:ウィキペディアと科学史――知識とコミュニケーションを考える」

概要

Wikipedia:オフラインミーティング/科学史学会2016 - Wikipediaの参加メモです。当日のTwitterハッシュタグ#jawphos
当日のツイートまとめ(togetter)は以下
togetter.com

※私の聞き取れた/書き取れた範囲の内容です。もし、なにか問題がありましたら、お手数ですがコメント欄などでお知らせください。

本編

導入 組織者及び司会である北村紗衣より、企画趣旨等の説明(5分程度)

利用者:さえぼー - Wikipedia
科学史関連の記事を執筆しているウィキペディアンと、科学史分野のアカデミア関係者(研究者)の意見交換。Wikipedia15周年、調べ物をするうえでのインフラとして定着しつつある。学術情報を生産しているアカデミアのコミュニティと、Wikipediaを普段書いている人たちの関係は、複雑で、良いと言えない側面もある。参加者のうち、「科学史学会会員かつウィキペディアン」は、さえぼーさん含め2名らしい。
信憑性に関して、かなり酷い記事があるのは周知の事実。Wikipediaコミュニティにおいて学術情報は重宝されている一方で、アカデミアの慣習とは合致しない部分もある。アカデミアの立場からすると、Wikipediaの記事執筆で学術情報の参照を行なっている者が一体何者なのか、は興味があるところだと思う(確かに!)。

本イベントのきっかけは「英日翻訳ウィキペディアン養成セミナー」がきっかけとなっている。
作成した記事の例: 1860年オックスフォード進化論争 - Wikipedia

ウィキペディア記事作成のデモンストレーション
利用者:さえぼー/sandbox」に下書きで記述されていた「ドロシア・リンド・ディックス」を例に、ビジュアルエディターを用いて下書きの移動による新規記事作成。
「いま「ドロシア・ディックス」の記事が誕生しました。」(おおー)

発表(1) 管理者である日下九八が、ウィキペディアの科学及び科学史記事の概要について説明(20分程度)

利用者:Ks aka 98 - Wikipedia
理系出身者で科学史にはもともと興味をもっている。ざっくりとWikipediaとはどういうものか?について話す。
ノートページにおける議論に関する説明として、『「関数」なのか「函数」なのか』で非常に盛り上がった(揉めた)出来事がかつてあったという紹介があった。 Wikipedia:井戸端/subj/「関数」か「函数」か - Wikipedia

  • 記事数は全言語のなかで10位前後で推移している。登録して10回以上編集したユーザーの数など。
  • 日本語版の閲覧者は英語版に次いで世界で2番目に多い。
  • 記事カテゴリとしてはポップカルチャーが多い。
  • Wikipediaについて90%くらいの人が「だいたい信頼できる」と考えているらしい。via. Pew Research Centerの調査(URIメモ忘れ)
  • 2011年時点でのWikipediaの編集者に関する調査。大学卒業者がそこそこ居る(D2. How old are you? の結果紹介) 母数が200程度なので、という話はあるが意外とちゃんとしている人が多い。
  • 日本における過去の調査事例: 樫原真知子, 武宗次郎, 遠藤有美江, 土井亮平. Wikipediaの評価. 慶應義塾大学文学部図書館・情報学専攻上田修一研究会 2007年度グループ研究レポート. 2008.
  • 司書課程学生に対する信憑性調査(で良いのかな、要確認) ↓


ci.nii.ac.jp

日本語版において充実している記事は、秀逸な記事として選出されているような、少数・特定のユーザーががんばって書いた記事、あるいは、他言語版の翻訳によって記述されたもの、と考えて良いのではないか。

専門家としての執筆

★専門家による記事執筆

  • 学問的基礎・前提
  • ニッチな分野、新しい分野の周知
  • 誤解されがちなテクニカルターム
  • 正しくない俗説の否定
  • メディア・コミュニケーション
    • 新聞記者はまずWikipediaの記事を見て取材に…
    • 3.11発生時に地震原発記事へのアクセスが急増。数日前のPV上位項目はというと、、笑。

www.slideshare.net


日頃から記事を書いておくことが重要。大きな地震が起きたときにマグニチュードの記事を急いで書く、みたいなのはイマイチ。デメリットとしてはよく分かっていない素人に絡まれると面倒くさいとか、批判されるとか、業績にならないとか、色々あるけど。

教育関係者によるWikipedia記事執筆活動などの紹介例

発表(2) 利用者:さかおりが、地方病 (日本住血吸虫症)の執筆について発表(20分程度)

利用者:さかおり - Wikipedia

www.slideshare.net


自己紹介: Wikipedia日本語版の管理者(のひとり)。2009年11月25日に初編集、2012年9月より管理者。本業は旅行業(Wikipediaは趣味)。

特定分野の専門家でも研究者でもない。執筆のきっかけは、地元に関する事項の不足を感じた。なぜないの?だったら自分で書いてみようかな。主な執筆記事の紹介。山梨県重要無形民俗文化財(新規記事作成、スタブ記事の編集など)、登録有形文化財、地理、天然記念物、指定解除された天然記念物、名所旧跡地、山梨近代史、その他、、(すごい)。現地に行き、図書館に行き、関連資料を集めて記事執筆、といったことを行なっておられるらしい。すごいモチベーション。。

日本住血吸虫症

地方病 (日本住血吸虫症) - Wikipedia
詳細かつアツい説明がありました(実況ツイート参照)。

記事執筆について
  • 現地調査の考え方: ウィキペディアン個人がフィールドワークによって得られた成果物は、それが検証可能性を伴わないものであれば、記事内に直接反映させてはならないと考える。しかしながらフィールドワークは執筆者にとって記事テーマ全体を俯瞰する意味で重要であり、現地の雰囲気を体感することで、記事構成や文章表現等の具体的なイメージをふくらませるのに重要と考える
    • →撮影した写真をアップロードすることについてはOK
  • 資料文献の集め方
専門家の方々と良好な関係構築の期待
  • Wikipediaは執筆編集者個人の研究成果を発表する場ではない
    • 複数の適切な文章や資料内容をもとに、テーマの全体像を分かりやすく総合的にまとめることがWikipedia記事の理想ではないか
    • それに加えて、補助的な説明や具体的数値や事例など、その他の情報を肉付けすることで記事内容をより充実させることとなる
    • そのためには市販書籍、図書館で閲覧可能な文献や資料だけではなく、研究者や専門家の皆さんの研究成果(論文等)が出典として有用に使用できないだろうか
    • 専門家・研究者の方々がまとめられた研究成果のなかで、画像に関してはWikipediaの姉妹プロジェクトである。Wikimedia Commonsに画像がアップロードされている例がある: 地方病 (日本住血吸虫症) - Wikipediaの記事内で使用しているミヤイリガイ画像はまさにこの例。
    • (スライド内の論文参照記述にDOIが使用されていて個人的に感動した)

発表(3) 利用者:のりまきが、日立鉱山関連記事の執筆について発表(20分程度)

利用者:のりまき - Wikipedia
自己紹介: Wikipedia日本語版の一般利用者。初編集は2006年5月6日(10年キャリア!)。管理系には顔を出していない。執筆分野はバラバラ(歴史関係が中心。ただ、生物や地学関係などもそれなりにやっている)。強みは単に歴史ばかりではなく、文化、芸術方面、理系(地学、生物のみですが)など多様性のあるところ

まとめ(1)

  • 使用参考文献数(単行本、論文等の合計)の提示がありました(メモできなかった)
  • 執筆に困ったのは化学・科学分野の文献を読むこと。文献を使いこなせているかが不安
  • 日本語版独自のカルチャー。ガラパゴス化。専門家・外部者の助言が望まれるのでは
  • ウィキペディアンには得意な分野がある→鉄道、地域史など
  • 優れた記事を数多く書いているウィキペディアンとの懇談会に参加した時の驚き: ひとりとして専門者はおらず全員アマチュアだった!→究極の趣味人
  • 専門家の活動の背景には、優れた趣味人という広く豊かな裾野があるからこそ、様々な分野が充実しているのではないか
  • 専門家との共存共栄関係を築いていけるのではないか?

コメント コメンテイターである吉本秀之及び藤本大士によるコメントと質疑応答(20分程度)

藤本大士氏「郷土史家とウィキペディアン」

  • 大学の研究者と郷土史家の協働を提案したい。大学の地域史をやっている者としては当然だが、各地域を扱っている専門家の協力なくして一次史料を用いた研究は困難であるということが指摘できる。
郷土史家とは?
  • 歴史の高校教員を中心としてきたところが多い。科学史・医学史分野では、地元の技術者・医者の活躍が目立つ。
  • 活動の特徴として、一次史料に基づいた「研究」および二次文献をまとめた「伝承」。発表媒体も『地域史研究』などアカデミックなものから地域の広報誌(タウンペーパーに至るまで様々)。
  • 一次文献・二次文献のアクセスのしやすさ: 国立国会図書館にないものは結構ある。自費出版とか現地出版(?)とか。そういったものを集めるのに現地に出向いていると大変なのでWikipediaに情報があるとありがたい。
  • 現状: 郷土史家・郷土史コミュニティの減少、発表機会の減少。高校教員の業務増加に伴い、これまでは空き時間にできていたことが、段々とできなく/起きなくなっている問題がある。
    • Wikipediaを一定程度活用できるのではないか?
郷土史家としてのウィキペディア
  • 利点
    • インターネットという無限の発表媒体
    • 郷土史コミュニティに入らずとも、個人でいつでもできる
  • 課題
    • ウィキペディアポリシー(史料に基づいた記事執筆ではなく、二次文献をベースにした記事執筆の症例)により郷土史家の一次文献にもとづいた「研究」と二次文献のまとめによる「伝承」のうち、後者しか載せられない?
    • 個人の活動が中心となるため、情報共有、モチベーション維持が難しい?
    • Wikipedia内での地域コミュニティ「Portal:日本の都道府県」(各地域の執筆者同士の情報交換。どういった場所で文献を探しているか等)
    • Wikipediaタウン(最近は自治体との連携、大学教員(専門家や研究者)などとの繋がりも生じてきている)
  • 佐賀医学史研究会の取り組み紹介
いくつかの論点
  • 科学史学会支部の多様な活動との連携可能性(北海道、東北、関東、東海、京都、阪神、中国・四国)
    • 研究発表、郷土史研究、科学・理科教育、科学コミュニケーション、など多様なものを扱っている
    • 支部を中心として、連携可能性を探る
  • 科学教育・科学コミュニケーションの一環として
    • 授業での記事執筆活動など

登壇者からのコメント(敬称略)

(日下) ローカルウィキがあるので、そちらは検証可能性はWikipediaほど追求されないのでその活用を考える。Wikipediaのコミュニティという言い回しをするが、ちゃんとしたコミュニティがあるわけではないので、連携を考えた時に、京都や九州なら多少、というのはあるが、どこそこで何かやるのでどなたか、と言われた時に、それに該当するウィキペディアンを探す術を持たない。そもそも日本語版の管理者で会ったことある人て何人いる?→5人くらい→なので編集活動をしていて他のウィキペディアンと会ったことがあるっていう人は、鉄道等を除いて、たぶん20名いないくらいだと思うから、連携については方法を検討する必要がある。
そういったことをやりたい人がウィキペディアンになってくれる、というのが起こると嬉しい。
(のりまき) 自分の反省を込めて。立派な活動をしている人であればあるほど個人での活動というカラーが強いと思う。最近になってようやくイベント等に出てくるようになった身であるため、今後可能性を探っていく・発展させていくことを考えねばと思う
(さえぼー) ご自分は郷土史家だと考えていますか?
(さかおり) ない。結果的に地域のことを書いているので、他人から見るとそう見えるかもしれないが、郷土史家の視点として何かを研究しようと言うことになると、やればやるほどWikipediaに客観的に書けなくなることを危惧すると思う。1人だと主観が入ると思うから、コミュニティを作って情報提供や共有・交換が活発に行われるようになれば、いいかも。
(のりまき) No。現住地に関する記事はひとつも書いていない。地域ごとに載っている時期などの旬があると思う。近現代史が面白い記事とか。野菜と同じで、各地域ごとに旬のものがある。郷土史家だったら旬である/ないにかかわらずフォローしていると思うが、自分はそうではない。
(日下) 郷土史家が何なのか?がそのコミュニティにいないとわからないこと。どういうことをしていたらそう呼ばれるのか、何をしているのか。郷土史研究には長い長い経緯・歴史があるはずで、そこに踏み込むのは面倒くさいと考えるのかも。地域のことを調べたい・興味がある、というひとと、郷土史家と呼ばれる人、あるいは郷土歴史館などに居るような人との境界線があるのかも。Wikipediaタウンなどをやっていると、郷土資料館の元館長さんに案内してもらって、そのあと図書館に行って資料を調べて、という流れになるので、漠然と地域に興味がある人とWikipediaを結びつける、ということはできているようにおもう。

吉本秀之氏コメント

  • 百科事典の歴史を調べたことがある。百科事典の歴史のなかで論文を書いた立場として、日本だと平凡社の辞典が有名だと思うが、平凡社が倒産し、再興されているが、わりと大きな百科事典一セットが一家に1つあるみたいな時代は終わったと思っている。
  • 小さいころは百科事典を調べたりといったことをやっていたと思うが、いまの小中高生はほぼ百科事典で調べる行為は、教員に強制でもされないとやらないと思う→物事を調べるツールとしてのWikipediaの存在感。
  • 小学校など、レポートや自由課題などで子どもが調べるのを見ているとWikipediaを写すという行為が見られる。
  • 自分自身、専門外のことを調べるときはWikipediaを調べてざっくりと把握して、それ以上関心があるなら調べる。そうでないならそこで終了する。Wikipedia内容が充実することは、日本語の知識レベルをあげることにはかなり貢献すると思う。
  • 結局、百科事典も誰か個人が書いていて、編集者の手入れがどの程度行われているかはばらつきがあると思う。個人的な直感として、Wikipediaは変な記事もあるが、従来の百科事典と比べて全体的な差はつかないのではないかとおもう。
  • 英語圏で、NASAなどの記事は充実していて、それが好きな人が猛烈に編集しているのだろう。
  • 自分たちの分野の百科事典を作るとき、担当項目数がとても多くなって大変な状態になっている話。あまり確たる自信を持って詳しいというもの以外は厳しいとか、項目としての欠落がないようにすることの重要性などの問題とか。
  • 子どもたちが調べ物をするときに、ある程度多様性をもったカバー範囲があると嬉しい。レファレンスが付いているので調べようと思えば子どもでももっと調べられるはずなので。
  • 専門家との協働については困難な部分もあると思うが、Wikipediaに書いたものをチェックしてもらう・フィードバックをもらう、というのができると良いのかなと考えている。

登壇者コメント(敬称略)

(のりまき) 辞典を作ることに存在する様々な苦労を感じた。熱心なウィキペディアンであれば、調べたこと・知ったことをどこまで書く/書かないを吟味することはある。敢えて記述する/記述しない、まとめる/まとめない。
(日下) こどもの話では、Wikipediaをあまり見るなと言っているのではないか。学校の調べ物学習の時間で、辞書を調べるなどの指導は有ると思う。そこでWikipediaを見るということにはなっていないとおもう。まあでも皆さん見るには見てると思うし、真に受ける真に受けないはある程度リテラシがあると思う。記事のまとめ方や構成については、素人には難しいところがあると思う。相当その分野に明るくないと厳しい印象はあるので、方向性を示す・助言をするという意味でフィードバックが得られると役に立ちそう。生物史など、2~3行あれば最低限記事になる、というようなものについて、網羅性の観点から考えると記事が存在するほうが嬉しいが、立派な/詳細な記事が書かれていないとダメだろうという考え方を持っている人もいるようなので。

(さえぼー) Wikipediaには査読依頼の機能(Wikipedia:査読依頼 - Wikipedia)があり、専門家にコメントを依頼できる。自分もコメントしたことがある。査読を依頼するシステムがあるので、そういったところを読んで専門家にコメントしてもらいたい。コミュニティには喜ばれると思う。
(日下) あまり機能していないような気がする。
それは日本語版独自の機能?→どの言語版にもあるはず。

質疑応答 フロアからの質問受付と応答

1. (アーカイブズ学がご専門で、研究者が残した科学史資料の保存をやっている方からのコメントでした。日本に若い寄生虫学者がいない/いなくなっている話)

2.
Q. ある記事を書く時に背景的なものは他領域/多様な要素が関わってくる。百科事典的な役割を考えた時に、ある程度コンパクトなものであるほうが望ましいように思う。優れた記事は文章が長い傾向にあるように思った。そのあたりのバランスはどうなのか
A. (のりまき) 最初にまとめを示して、あとから詳述していくというスタイルがあるとおもう。
Q. (さかおり) 最初から秀逸・良質な記事を書こうと思って書いているわけではない。Wikipedia内部の話になるかもしれないが、コミュニティとして、まったく意味のない記事を冗長に書くのはダメだが、極力、詳細に書く/ちゃんと書くことが好まれる土壌はあるとおもう。Wikipedia:秀逸な記事 - Wikipediaという項目もあるが、そこでも「概して長文になるな」というのはある。記事全文を読まないと分からないというものではないし、概要節を読めば分かるだろというのは有ると思うが、人物記事や伝記等については、長くならざるをえないと思うし、省く/詳述するのバランスは難しいと思う。これは今後の議論になるかもしれないが、コミュニティの中で答えを出すのは難しいように思う。
A. (日下) Wikipedia:ウィキペディアは何ではないか - Wikipediaという記事がある。アクセシビリティの問題で、ある程度大きさで分割するのが良いかなと思う。記事として分割できる状態になっているほうが好ましいのではないかと思う(システムの問題?ごく初期の頃はあったという話らしい)。2007年ころから、立派な記事を書く人が増えていって、記事の長大化が進んでいって、いわゆるサブカル系の記事の登場人物(アニメの登場人物)とか、それに対する反発とかが(どちらかというとちゃんとした項目を書いている人から)あって、記事の長さに対するスタンスは様々だと思う。
小さい記事しか書けなくて、出典もなくて、みたいな人に対して反発が高まった記事もあった。それぞれがどんな記事を書くかを考えながら収束していくといいな(でも、20年30年かかる気がする)と思っている。

4.
Q. 大学の教育で使えないか?ということを考えている。英語から日本語で翻訳を行なっているという報告がさえぼーさんからあったが、非常勤先で講義を持っている。課題の1つ(オプション)として記事作成や更新、ブログ執筆などを設けている。やってみた印象として、既にWikipediaをやっている人は中高生でもできる、今までやっていない人に参加する方法のレクチャーなどは行なっていないので、新たに参入する人が少ない気がした。多様な学生がいるなかでWikipediaを使うことについて、きいてみたい。
A. (日下)時実先生ほか、報告事例がある。表に出てきていない部分で出てきているのは、アカウント名として本名を使用している光景をみて「大丈夫かな?」と心配になるパターン。出典を伴わない編集になってしまう人もいて、先生もそのあたりを予想していなくて、ウィキペディアンから「直して欲しい」と言われて、返事をしなかったりするとブロックされるとか、IPアドレスのレンジがだいたい決まっているので広域ブロックが適用されて大学単位で編集できなくなったりとか、そういうのはある。。どこの授業でやっているのか全く分からないままやっているので担当者が分からず、IPアドレスから引けば学校名は分かるんだけど、担当者はわかんない、みたいな。本名登録ユーザーをツテに調べたら担当者と接触できたとか、そういう面倒事がある。できれば事前に一声かけてくださると嬉しいのと、理想的には、検証可能性などの基本事項について一巡してから授業に取り入れてもらえるとトラブルを減らすことができるかなとおもう。トラブルが起きると評判が下がりかねない部分があると思う。コピペしてたりすると大学などの評価につながりかねない部分もあると思う。相談してもらえれば、何を押さえて欲しいとかはアドバイスできる
A. (さえぼー) 1年やった経験があるのでアドバイスを求められたらお助けします。Wikipedia上で授業用の下書き用ページ(プロジェクトページ)を設けると良い。ウィキメールを活用すると良い。著作権絡みの削除が多いので、著作権はしっかり押さえること。翻訳に限っては履歴不継承を除いて削除の心配が少ないので良い。ゼロから作るのは大変だと思う。他言語版に項目があるものについては特筆性の問題がクリアできるし。。

Q. 紙製の百科事典を比べた時に、紙製も信頼性が高いとは言え間違っていることもある。Wikipediaのような存在の登場によって、どれもカンペキではないが信頼度がそれなりのものが複数登場しているのはいいことだと思う。Wikipediaが良いと思うのは、画像について、日本の出版者よりも処理がマトモだとおもう点。日本の出版者の慣例には難があるような気がする。CCとか出典明記とかね。
A. (日下)日本の出版者は、引用で良いことについて本人への許諾を取りに行って面倒を巻き起こしているように思う。Wikipediaでは画像の引用が凄く難しい。英語版ではfair useがあるが、日本語版だと、本文中で使う分には引用でどうにかなるかもしれないが、fileしかないページがあったときに引用として成立するか/商用利用を圧迫すると言われた時にどうするか?などの問題が有ると思う。画像の引用については議論になっていて、できないのではないかと考えている。Wikipediaはライセンス上かなりしっかりやらないといけないので、という事情から来ている部分もあるように思う。
日本で発行されている学会誌でウェブ上でアクセスできるようになったものは増えたが本当に自由に再利用できて〜というのが明確に提示されているのは九州女子大学の紀要しか無い。

5.
Q. 大学の話で、Wikipediaではないが、情報リテラシーの授業で、はてブのことを学生に教えようと思った。学籍番号でIDを作って、同じ記事をブクマさせたら、IPアドレス帯と類似IDからの大量ブックマークということでBANされた。あとではてなに連絡して謝罪したが。。入門用ページのようなものを作って練習できるような状態になると良いかも。はてなに関しても同様のことがあったが、連絡先が分かんない、問い合わせ先がわかんない、というのがある。そのあたりがクリアになると良いかと思う。
項目の選び方も難しい。ある程度の数が必要だと特に。
A. (さえぼー) 120ほどの記事を作って死にかけたので、大きなものをやろうとしすぎないことも大事。

6.
Q. 人文社会系において自分の知識を披露するのは厳しい。業績にならない、お金にならない、書いても「なぜ知ってるの?」「そんなの常識でしょ?」といった揉め方をする可能性がある。そうすると必要な事項が記述されない。出典がやたらと厳しいとか。。
日本語版にだけ「ない」という学術系の重要項目が有ると思う。アニメはやたらと充実してるんだけど。。教養として使いづらいのが困っている部分。科学史学会との協働ができると良いと思う(それはそれで難しそうなところはあるんだけど)
A. (のりまき) 台湾の蒋経国に関する記事を書こうとしたら、中国語が読めないので難しいということがあった。大穴が開いているのでどうにかしたい。裾野を広げていくような活動に協力してもらいたい。
A. (さえぼー) サブカルチャーは比較的充実しているが、「アニメーションの歴史」はない。アニメの歴史 - Wikipediaはある。学者にできる情報提供として、先行研究のまとめを論文/博論でやると思う。先行研究の持ち込みのレビューとかだと、独自研究で削除される可能性はなさそう(自分の書いたものを持ち込む場合には別途手続きが必要ということ?)
参考: Wikipedia:すべての言語版にあるべき項目の一覧 - Wikipedia

7.
Q. 学会からの執筆の参加ということで土木学会が例にあがっていた。事故が起こるまえでは良いことだと思っていたが、中立観点とかを強調しておかないとバイアスのかかったものになるのではないか。

Q. 史料を記事に反映させたいような場合。内部で配られたのみ、というような写真をWikipediaに反映したいときはどうするか?コピー等を持っておいて国立国会図書館に寄贈して、それを参照するようにするというアプローチがあるようにおもう。
A. (さえぼー) 架空出典という事件があったので国立国会図書館への寄贈は良いのではないかと思う

8. 海獺さん
Q. 3.11のときに白紙保護化したときがあった。速報的に、デマかどうか分からないことを多々書き込んでしまう人がいる可能性があるので、善意をもって白紙化保護したときがあった。記事のノートページにジミー・ウェールズ御大がやってきて苦言を呈され、アカウントを登録してしばらく経ったユーザーのみが書けるように変更された。
(半保護になったということでよいのかな?事実誤認だったらごめんなさい)
togetter.com

ジミー・ウェールズ(Jimbo Walesジンボ・ウェールズ)による投稿:ノート:東北地方太平洋沖地震/過去ログ1 - Wikipedia
当時の白紙化保護状態のページ(過去の版): 東北地方太平洋沖地震 - Wikipedia

修正・変更点など

1. 2016年5月29日16時40分頃に一部修正を行いました

2. 2016年5月30日追記: 講義や授業等を通じてWikipedia編集を企画するような場合に向けた記事が立ち上がったようです。
Wikipedia:教育プログラムでウィキペディアを執筆する - Wikipedia
これは前述の「質疑応答 フロアからの質問受付と応答」の4番目に関連するものです。
(参照: 海獺さんのツイート)


3. 2016年5月30日追記: typoを一部修正(気付いた範囲で直しましたが、分量がそこそこあるので多分まだまだ残っていると思う。もっとも、こういうのこそwiki的なシステムで編集管理すれば良いような気はしますが…)。

4. 2016年5月30日追記: togetterへのリンクを追加

5. 2016年5月31日追記: ジミー・ウェールズによる投稿、白紙化保護、の2点を追加

6. 2016年6月1日追記: さかおり氏の発表資料を追加